都市化の進展がもたらした消費拡大の前借り社会
前借り社会 年が若くても借金漬けが若者の日常に
ここ十数年で、中国の末端社会は急激に変化している。県域(中国の4つの行政区分(省地県郷)のうちの3番目)を中心に都市化が急速に進んだ。統計によると、中国の都市化率は既に65%に達した。その一方で、そこのいる個々人には、その生活習慣と行動原理によって、顕在的、潜在的な影響がもたらされている。
末端社会と個々人の行動の変化をどのように理解すればいいか。このことについて10個のキーワードを用いて話そうと思う。
最初のキーワードは、「前借り社会」である。
問:「前借り社会」という言葉はどこから来たのか。
呂徳文:これは私と私のグループが観察してまとめたもので、私が主に説明者である。ここ数年私たちのグループが行った大規模な調査によって、この社会形態があることにはっきりと気づいた。
ここ数年で、私は調査する中で多くの若者に会ったが、20代で既に多くが借金漬けになっていることはとても衝撃的だった。若者が一人暮らしをしていれば、家計負担がないのだから、自分で稼いだお金で十分賄えるというのが道理である。
例えば、私の世代のように、私の同級生は中学を卒業してから働きに出れば、普通は自分で稼いだお金で自活できるし、お金を貯めて家に仕送りする人もいる。
私たちの世代の行動原理は、基本的には前の世代を継承したもので、どれだけのお金でどれだけのことをするかである。特に消費は慎重になるはずで、身の丈に合わなければ頑張って消費しないはずである。
しかし、前借りということが、ある意味で既に現在の若者の日常生活になっており、借りられればそれを使い、いつも借金がある。借金を返済し終えて、気楽でストレスのない日を送りたいと思っても、ほとんどの人は永遠に終わらないのは、前借りをする消費習慣が既にできていて、それが無意識な行動になっているからである。
問:昔も、借金をして消費することはあったが、これが今のいわゆる「前借り社会」とは何が違うのか。
呂徳文:以前であれば、前借りする相手は自分の知り合いであり、その前借りする限度額も非常に限られていた。知り合いの間には信頼メカニズムがあって、それによって自分の欲望に抑制がきいたのである。
例えば、私がお金を貸すとして、初めて私がお金を貸してから、2回目のときに以前の返済がないとすれば、貸すべきかどうか迷うことになる。3回目にまた貸すことになれば、私は相手の信用が破産していることを知ることになる。
人からお金が借りられなければ、自分の消費行動や生活習慣を反省して、自分を変える人もいるかもしれないが、現在、ネット融資の特徴の一つは、厳格な本人確認や制約メカニズムがないことである。
私が以前インタビューした人に、身分証明書を1枚さえあれば10万元借りられると言う人がいたが、10万元というお金は何を意味しているだろうか。彼の当時の月給は4000元ぐらいであり、10万元ためるには少なくとも5年間働かなければならないということだろう。5年後にならなければ10万元はためらないという消費水準である。
インターネット金融が発展してから、若者は5年前倒して消費できるが、それが習慣になり、永遠に5年前倒したり、10年前倒す者まで出てきた。身分証明書で10万を前借り、不動産登記簿で100万、200万と前借りする。ある意味で、インターネット金融は消費社会の論理を加速的に膨張させていると思う。
問:個人の消費意欲を拡大させているということか。
呂徳文:はい、個人の欲望を極度に拡大させている。全ての人が自分が金持ちだと思い、卒業したら10万元使えると思っているのではないか。実際には10万元はそんなに大きな額ではなく、すぐに使い切れてしまう。しかし、最初から10万を借りてしまえば、その後どんどん借りてしまって、最後には借金にたえられなくなるかもしれない。
これは私が今日の若者の生活原理を研究していたときに遭遇した大きな衝撃であって、これが私がこの問題を考えるきっかけの一つである。
問:前借り行為は若者の生活習慣にすぎないようだが、社会問題化していると言えるのか。
呂徳文:若者だけでなく、今日の私たちの社会全体がそうなっていて、都市化が急速に進むにつれて幾つかの現象があらわれてきている。
まず第一に、誰もが都市化された生活様式を送ることになったが、都市化された生活様式の前提には家と車という2つのものがある。若者はお金を持っていないので、結局、家や車のコストは中高年に直接転嫁され、彼らも前借り状態に至っている。
問:前借りする対象が移動している。
呂徳文:はい。だから、現在は中高年も前借り状態になっている。それは、子女の結婚のためには家と車を用意しなければならないからである。家と車を合わせると100万はなくても80万にはなる。中西部地域であれば50万はどうしても必要だが、このお金はどこから来るのか。
これは、都市化がもたらした第一の影響である。
〔騰訊新聞2023年10月31日〕